「連帯が来なければ一番よかった」大津協組事件・6/6公判報告

法令違反を指摘され、逆ギレするセキスイハイム

工事部長の証人尋問

 6月6日(木)午前10時から、滋賀県の大津地方裁判所では大津協組事件の証人尋問がおこなわれた。そして、この日は今井裁判官が傍聴者に対し「退廷!」と大声で命じる一幕があった。堪忍袋の緒が切れたといわんばかりに裁判官席から立ち上がり、断固たる口調で命令を下す。その振る舞いはこの大津地裁の法廷の異様さを物語るエピソードのひとつといえるものだ。
 だが、その場面のことはのちほど説明することにして、まずこの日の証人尋問の様子をお伝えしよう。
 この日は関生支部の恐喝で被害を受けたとされる建設会社、セキスイハイム近畿のフジモト工事部長が証人。開廷するやいなや、さっそく例のついたてが登場した。傍聴席からなにも見えないなか、証人が入廷する気配がする。しばらくすると傍聴席から見て右側のついたてだけが壁際に移される。「裁判公開の原則に反する」と前々回の公判で弁護側が何度目かの抗議をきびしくおこなった成果なのか、これまでは右手に座る検察側だけがやっと見える程度だったのだが、今回は今井裁判官の顔もようやく見える程度についたてが減った。気にしているのだろうか。

工事部長「二度とくり返さないような処罰を」

 主尋問で検察側は、主に同工事部長が体験した2017年2月~3月の「連帯の人によるいやがらせ」の件を尋問で立証しようとした。部長は「事件」当時は工事課長で、工事現場の直接の担当者ではなかったが、現場の工程把握、安全・品質とコストの管理を担当していたという。
 検事が連帯の人たちが来たときの様子をあれこれ確認したのち、「連帯が来たことでなにか損害があったか」と尋ねると、工事部長は生コン打設をやり直すことになったので「生コン1㎥=1万3300円プラス割増運賃1000円」の損害が生じたと説明。傍聴席からは「えっ?」という声が洩れる。「これ以上、連帯の方が現場に来られるのはこりごりだと思った」とも証言していたので、耳を傾けていた傍聴者の多くが、それなりの損害が出たと言うのかと思っていたらわずか1万4300円だったからだ。 
 つづけて検事が「どんな気持ちでしたか」と訊くと、法律違反で工事をしていた自分たちの立場はそっちのけで、「許せない気持ち」。さらに「どんな処罰にしてほしいか」との問いには、「今後、こんな処罰を受けるのだったら(コンプライアンス活動は)しないと思うような処罰をしてほしい」と”被害者”らしく感情を込めて答えた。

ダブルスタンダード(もしくは二枚舌)

 その後、弁護側の反対尋問に移ったのだが、工事部長の証言は珍妙だった。傍聴席からは思わず、いくども失笑やため息が洩れた。
 無理もない。部長氏は、弁護側から法令は守らなければいけませんよねと質されると、もちろん法律は守らなきゃならないとテンポ良く答えておきながら、いざ関生支部から指摘された法令違反や道路使用許可条件違反について話題が及ぶと、多少の違反は現場の判断でやむをえないと強弁したからだ。最後は自分たちの法令違反や許可条件違反をタナに上げて逆ギレした。
 メモをもとに要点を再現すると以下のようだった。

 太田弁護士「ハインリッヒの法則はご存じですよね?」
 工事部長「はい」
 太田「小さなミスだからいいってことではダメですよね? それがコンプライアンス(法令遵    守)ですよね?」
 部長「はい」
 太田「リスクマネージメントはご存じですよね?」
 部長「はい。事前にリスクを抽出して未然に防止すること」
 太田「あなたがさきほど証言した現場の道路使用許可条件は?」
 部長「(荷下ろし作業のトラックや生コン車の周囲に立ち入らぬように)カラーコーンとガー    ドマンの配置など」
 太田「保安施設の設置、交通誘導員(ガードマン)2名の配置となっていますね?」
 部長「はい」
 太田「あなたは工程管理や安全・品質管理の担当だから、現場の責任者に許可条件を守らせる    義務がありますよね?」
 部長「はい」
 太田「許可条件に反してカラーコーンがなかったり、
    ガードマンがいなくて事故がおきたら?」
 部長「う~ん。万が一危害が及べば、ですけど・・・」
 太田「事故は起こってからでは遅い。コンプライアンスやリスクマネージメントはそのために    あるのでは?」
 部長「・・・」
 太田「許可条件を守らなければ事故が起こる可能性はありますね?」
 部長「はい」
 太田「許可条件を守っていないときは?」
 部長「取り消される・・・」
 太田「連帯の人が来たとき、カラーコーンは?」
 部長「(現場からの連絡で)私が行ったときはなかった」
 太田「ガードマンは?」
 部長「いなかった」
 太田「あなたならどう対処する?」
 部長「(分譲地で)通行人がいないから、カラーコーンやガードマンは
    意味がないと判断した」 
  太田「許可条件が示されているのに、勝手にそんな判断していいのか?」
 部長「・・・。カラーコーンやガードマンはどこまでいっても通行者の保護のためだから」
 太田「作業員の保護は?」
 部長「轢かれるときもあるんでしょうねえ・・・」
 太田「現場の勝手な判断で許可条件を破ってもいいのか?」
 部長「許可条件に反したことは認めるし。推奨はしないが・・・」

 ここまでのところで、傍聴席からはなんどもため息が洩れ、それは今井裁判官にも聞こえるのだろう。だんだん顔つきが険しくなってくる。検察側の尋問のときは証言席の部長氏を見て、ときどきうなずき、なにやらメモを取っていたのに、反対尋問になると裁判官は証言内容や証人の部長氏のことより傍聴席の様子が気になってしかたがない様子だ。

●「環境にやさしい住まい」

 さらに弁護側の反対尋問はつづく。
 
 太田「道路清掃を確実に行うことと許可条件9項にある。道路法も汚した場合は清掃すること    を義務付けている。なぜきれいに清掃する必要があるのか?」
 部長「道路は公共のものだから。それに危なかったりするから」
 太田「pH12の強いアルカリ性の水が工事現場から流れ出ていたらどうなる?」
 部長「汚染されます」
 太田「水質汚濁防止法にもひっかかりますね?」
 部長「はい」
 太田「法律もだが、法律違反以前のことですよね。セキスイハイムさんは『環境にやさしい住    まい』を謳っていますよね?」
 部長「はい・・・」
 太田「連帯の人はあなたに対して威圧的な話し方はしていなかったですよね?」
 部長「はい」
 太田「道路使用許可は取っていなかったのですか?」
 部長「取っていなかったのではなく、現場に置いてなかった」
 太田「指摘された法令違反が事実ではないということはありましたか?」
 部長「それはない」
 太田「現場に問題がなかったとはいえませんよね?」
 部長「そうです」
 太田「法令通りきちんとやることは会社の企業イメージも上がるし、従業員のモラル向上や環    境にもいいことなのでは?」
 部長「おっしゃる通りです」
 太田「ビラの内容は事実ですよね?」
 部長「はい」

 ここまで来ると傍聴席からいくども失笑がおきる。今井裁判官の顔つきはいっそう険しくなる。じつは今井裁判官、前回の証人尋問では、傍聴席に向かって「笑うと被告人に不利になりますよ」ときつい口調で言っていた。

「それはいかんやろ」

 そして最後に弁護側は、検察側主尋問で部長が証言した「連帯のいやがらせによる損害」について尋ねた。許可条件違反を指摘され、生コン打設をやり直すことになったので「1万4300円」の損害が生じたという件である。
 太田「1万4300円が余分にかかったということだが、法令や許可条件に違反したままで工    事をつづけて、そのお金を払わなかった方が良かったのか?
 部長「連帯が来なかったら一番良かった」
 太田「1万4300円払わずに、違反がつづいた方がよかったということか?」
 部長「・・・」
 
 そこで傍聴席から、思わず独り言が洩れた。
 「それはいかんやろ」

鬼の形相

 すると今井裁判官は、素早く自分の席から立ち上がったかと思うと左手方向に飛び出し、鋭い声で怒鳴りつけた。
 「いま発言した39番! 退廷!」
 裁判官席からは39番の席は見えないはずだ。それなのに狙い澄ましたかのような早業で、なぜ瞬時に独り言の主を特定できたのか、どうしてその傍聴席の番号が39番だと判別できたのか。謎である。法廷にしらけた空気が漂う。
 弁護側の尋問はほぼ終わっていたので、このあと若干のやりとりがあって部長氏の証言はおわり、昼休み休憩となった。