弁護士に対する大量懲戒請求をはじめ、さまざまな分野で広がるネットを使ったデマと攻撃に対抗しようと、10月3日、院内集会がひらかれた。主催は、松本耕三(全港湾)、菊池進(全日建)、鈴木剛(全国ユニオン)、嶋﨑量(弁護士)の各氏。
以下の文章と写真は、レーバーネットに掲載された映画監督の土屋トカチさんの報告から転載。
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地下茎でつながる「ヘイト攻撃」にどう対抗するか〜シンポジウムを開催
10月3日、ネットを悪用した「ヘイト攻撃」をリアルタイムで受けている弁護士や労働組合のほか、大学教員やジャーナリストらが登壇したシンポジウムが、参議院議員会館で開催された。参加者は約80名だった。
シンポジウムの終盤に登壇したジャーナリストの安田浩一さん(写真上)は「市民運動や労働運動が遅れていたのは、インターネットへ対応できなかったことではない。レイシズムに対する危機感だ。単に弁護士や、労働組合が攻撃されているならば個別の問題で済むこと。しかしこれは、私たちの社会へ向けられた問題。社会を壊す問題だ」と発言。日本国内で跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)している、すべての「ヘイト攻撃」が地下茎でつながっていると問題提起した。
「私、ネットを悪用した『ヘイト攻撃』にさらされているんです」と冗談交じりに話したのは、長年ブラック企業問題に取り組んできた佐々木亮弁護士(写真下左)。1,000通以上もの大量の懲戒請求を受けた。これまで、朝鮮学校の無償化除外問題に関わっている弁護士へ、大量な懲戒請求が行われる事件が相次いでいた。しかし佐々木弁護士は朝鮮学校の無償化除外問題には、まったく関わっていなかったのに、懲戒請求が行われたのだ。
弁護士への懲戒請求を扇動しているサイトが『余命三年時事日記』というブログだ。このブログは老舗の出版社・青林堂から書籍化されている。佐々木弁護士は、「ブログ主は否定しているが、大量の懲戒請求がなされたのは、青林堂との労働争議で私が弁護人をしているからかもしれない。この事件について『ひどい』とSNSに1度だけ記した嶋﨑量弁護士(写真上右)へも大量の懲戒請求が届いた。この事態は、悪意にみちた殺到型不法行為。損害賠償請求できる形をつくりたい」と述べた。現在、訴状準備中だという。
「一連の事件は、権力による明らかな意思がある。それは、たたかう市民運動、労働運動をつぶしていくというもの」と話したのは、全国コミュニティ・ユニオン連合会の鈴木剛会長(写真下)だ。全国ユニオンでは、青林堂との労働争議が続いている。青林堂は、全国ユニオンを誹謗中傷する書籍を、これまで2冊出版している。
「青林堂が出版している『余命三年時事日記』をはじめ、『さよならパヨク』『マンガ 嫌韓流』の「ヘイト本」を、防衛省が購入している事実をつきとめた」と、三宅雪子・元衆議院議員は発言した。
「抗議行動は『ゆすり、たかり』。要求は『強要』。ストライキは『威力業務妨害』。告発が『恐喝』。それでは、労働組合はいったい何をすればいいんだ」と憤ったのは、全日本建設運輸連帯労働組合(以下、全日建)の小谷野毅中央本部書記長。
昨年2017年12月、全日建は関西全域でストライキを実施した。理由は、大阪広域生コンクリート協同組合(以下、大阪広域協)と交わした2年越しの約束を履行することと、協同組合の民主的な運営を求めるもの。地道な労働運動の成果で、関西地区での生コンの売価は約5、000円が値上がりした。生コン工場は潤ったにも関わらず、運賃は上がっていない。運賃が上がらないと、運転手の給料も上がらず、困るからだ。
2018年1月から、「ゆすり、たかりのプロ集団」「組織犯罪」「不正な金の流れ」といったデマ宣伝が始まった。その先兵・露払い役を行っているのがレイシスト、瀬戸弘幸氏や渡邊臥龍氏らだ。彼らは、労働組合事務所を襲撃し、全日建と労使関係のある企業にも押しかけ「全日建と手を切れ」と大声でアピールする。そして、その様子を映像で収め、ネットで動画を頻繁に公開している。
最近では、これに便乗する形で、武建一委員長をはじめ20名の労働組合員が逮捕された。理由は「抗議行動」「要求」「ストライキ」など、労働組合活動を行ったからだ。憲法28条で保障されている、ストライキや労働組合活動が「事件化」されているのだ。
「リアルなヘイトデモや、ネット上での差別扇動。組合活動をしている人たちは、瀬戸弘幸氏や渡邊臥龍氏の実情を知らなすぎた」と述べたのは、精神科医の香山リカさん(写真)。
香山さんは「エコーチェンバー現象」についても解説した。「エコーチェンバー現象」とは、SNSにおいて、価値観の似た者同士で交流し共感し合うことにより、特定の意見や思想が増幅されて影響力をもつ現象のこと。攻撃的な意見や誤情報などが広まる一因ともみられている。つまりは、ネットを使ったデマの拡散が非常に効果的であるということだ。
紙の新聞をまったく読まず、ネットやアプリから情報を得ている人々が、この社会にはたくさんいる。メディアリテラシーがない若者や、iPadなどを手にしたばかりの中高年が、デマを信じて突き進んでしまう、恐ろしい現象だ。
これからの市民運動・労働運動は、レイシズムに対する危機感を強く持ちながら、ネットメディア上での影響も重要視していく必要があると、強く感じさせるシンポジウムだった。(土屋トカチ)